雨に似ている  (改訂版)

転校初日。

詩月が学生たちから質問攻めにされ唯一、答えたのは「趣味は何?」という質問だった。

詩月は「読書」とポツリ、答えた。


「どういったジャンルを読むの?」


「あ……古典文学」


「源氏物語や平家物語とか?」


「物語ものも面白いには面白いけれど、万葉集や古今和歌集など、短歌や和歌の方が赴き深いと思うな」


学生たちは詩月の意外な答えに、怪訝そうな顔をした。


「西洋文学にはない世界観……四季の移ろい、自然の美しさや雄大さ、日本人独特の考え方が、僅か31文字の中に織り込まれている」

詩月はさらに続けた。


「侘寂(わびさび)の考え方とか、ものの哀れとか儚さとか、生命感だとか……そういった無常感さえ、悲しい辛い虚しいなどという直接の感情表現を使わずに、31文字の短文で詠んだ文学だ」