そして――。
彼は転入早々の中間考査で、いきなり首席の成績を修める。


緒方郁子が高校入学以来、ずっと維持していた首席記録更新に、ストップをかけた。


彼の名は周桜詩月、天才ピアニスト周桜宗月の1人息子だ。

詩月は2年前の聖音学生音楽コンクール本選で、ショパンの「雨だれ」を見事に弾いた。

優勝最有力候補だと、評判の高かった緒方郁子をあっさりと敗り、優勝をさらった実力者だ。

詩月の母親は彼の父「周桜宗月」がデビュー仕立ての頃、ウィーンで知り合った女性らしい。

詩月は母親譲りのようで、碧みを帯びた瞳に、薄い茶系の髪の色に、鼻筋の通った端正な顔、細身で長い手足という整った容姿をしている。

高校2年生にしては、少々華奢だが、「ピアニスト志望なら、まあそれもありか」と、妙に納得させてしまっていた。