肩まで伸ばした真っ直ぐな黒髪、ツンと澄ました顔、くっきりとした二重瞼の大きな黒い瞳、鼻筋の通っている整った顔は、気丈そうな性格までうかがわせる。


黒ぶち眼鏡を掛けた優等生風の学生が、２人の様子を心配そうに見つめている。


彼は安坂貢、音楽科３年生でヴァイオリンを専攻している。

緒方郁子とは幼馴染みで、度々カフェ・モルダウに顔を出し演奏を行う。

貢は学内管弦学部（通称、学オケ）のコンサートマスターを務めている。

岩舘理久と中学以来の親友で、ここモルダウで度々、雑談にふけっている。

岩舘理久は３年普通科理系クラスで、緒方郁子とも親しい。

「止せばいいのに……どうせ断られるさ。言い出したらきかない郁を止めても無駄だからな」とでも言いたげな表情をしている。


「曲は？」

貢の読みを裏切り、彼は数秒の間を置き、細く掠れ気味の声で穏やかに訊ねた。

貢が「嘘だろ！？」唖然と彼を見つめ、息を飲んだ。