雨に似ている  (改訂版)

「それも理由の1つですけど、何を弾いても納得のいく演奏ができないので」


郁子の弾くピアノ「ショパンの曲」が、詩月に先日、放棄した演奏を思い出させる。


――暖かい音、体を包み込む、優しい雨音だ。
柔らかいけれど気品のある音。懐かしい演奏だ


詩月は思いながら、思い出したくない演奏を頭の中で再現する。

2年前の屈辱と挫折感が甦る。


――自分には到底できない演奏「ショパンの雨だれ」……同じ曲を弾いているはずなのに。


「何を弾いても納得がいかないって、あの演奏で!?」

「……ええ。それにコンクールに出れば、必ず父と比較される。『周桜Jr.』と呼ばれるのは、真っ平です」


きっぱりと言い放った詩月に「……ファザコンか」貢はボソッと呟く。


――聴きたくない


詩月は郁子の演奏に、ただ耳を塞さぎたくなる。


が……何故か耳を澄まし、演奏に釘付けになってしまう。