雨に似ている  (改訂版)

詩月は不規則な雨音と胸の鼓動が、妙に重なって聞こえるのが虚しくなる。


雨は止まないみたいに降っている。

詩月は口に出して言いたいことは幾つもあるのに……と思いつつ、言葉を飲み込む。

郁子と貢に遅れること、5分余り。

詩月は漸く(ようやく)「モルダウ」に着く。

カフェの扉を開けた瞬間。
聴き覚えのある演奏に思わず、弾き手を確かめる。


――緒方!?


詩月の脳裏に、2年前のコンクールが甦る。

――あの日、心を砕かれるほど圧倒的だった演奏。

詩月は舞台裏で立ち尽くし、震えながら聴いた「郁子のショパン」を思い出す。

あの日のショパンの「雨だれ」に、更に磨きをかけた郁子の演奏。

詩月は入り口に立ち尽くす。

ピアノはそんな詩月にお構いなしに、奏でられる。


「どうかしましたか?」

レジの若いウェイターが立ち尽くす詩月を怪訝そうに見つめ、声をかける。