雨に似ている  (改訂版)

郁子の頬を涙が濡らし嗚咽が漏れた。


「……鯨魚(いさな)取り海や死にする山や……」

詩月は喘ぎながら、フッと思い出したように呟く。


「はぁ?……なんだそれ。ふざけるな。人が心配しているのに」

詩月は、何もこたえない。


「おい!!」

貢は、苛立ったように怒鳴る。


「……万葉集……だ」

詩月はポツリ呟く。


「万葉集?」


「……防人の……無常を……詠んだ歌」


「そんなもの諳じている場合か」


貢の怒鳴り声にびくつき、詩月が顔をしかめる。

胸にあてた手を掻きむしるように強く押しあて、喘ぐような息をつく。


貢が詩月の背を懸命に擦る。

貢も郁子も、何と声をかけていいのか思いつかない。

貢は無言で詩月の背を擦り続ける。


「……そんな顔は見たくない。そんな風に辛そうな目で見られたくない……」