雨に似ている  (改訂版)

「ずっと……師事から外してもらおうとしたけれど、叶わなかった。奴は僕が、どんなに頭を下げても全く耳を貸さなかった……1年以上も耐えた」


「そんなに……」

郁子は、さぞや長い1年だったに違いないと思う。


「限界だった……溜まっていた不満と怒りを抑えきれなかった。奴のレッスンが嫌で嫌でたまらなかった。気がどうかなりそうだった」


「それで?」

貢が身を乗り出す。


「どうにでもなれと思って……レッスン中、感情任せに奴を平手打ちして自主退学をした」

抑揚なく話す詩月の話に、辺りがざわめき、誰かが無遠慮に口笛を吹いた。


詩月の父「周桜宗月」は国外、とくにヨーロッパで果敢に演奏活躍をしている天才ピアニストだ。


超絶技巧演奏家(ヴィルトゥオーソ)として名高い周桜宗月 、コンサートのラストに必ず弾くショパンが圧巻だとの定評がある。