雨に似ている  (改訂版)

「もう、逃げない。本気で弾く。全力でピアノを弾く」

詩月ははっきりと言い、郁子の手を握り返した。


「緒方……1度しか言わない」

詩月は小さく微笑み、郁子の黒髪にそっと触れ耳元で囁いた。


「……君が唯一のライバルだ」


窓の外。

雨が霧のごとく音もなく降り始め、景色を滲ませている。

優しく全てを包みこみ、慈しみ見守るように。

詩月の「雨だれ」の音色のごとく。

哀しいまでに優しく切なく、心地好いため息のように。



雨。

時に優しく、時に激しく、辛い時も嬉しい時も誰に対しても、平等に降り注ぐ。

でも……と詩月は思う。

ーー辛い時にも苦しい時にも、雨はいつも優しく見守っている。雨は様々な表情を見せながら、辛いことも苦しいことも洗い流し、いつも温かく励まし勇気を与えてくれる。「諦めるな、希望を持て。精一杯生きろ!!」と……生きる、それは「雨に似ている」


 Fin.