「ねぇ、素っ気ない演奏ね」

「周桜くんのショパン、あんな弾き方だったかしら?」

「なんだか、ただやたら上手いだけの演奏だな」

十月に入り、ピアノ専攻の学生の間で詩月のショパンの演奏が度々、噂され始めた。
特にピアノ専攻の主任、西之宮を師事している学生の反応は厳しい。


「技巧ばかり目立って感情がないというか……」


「あれではせっかくの技術が勿体無いし、興醒めしてしまう」


「前はもっと華があったよな……」

詩月は何とでも言えばいいと思う反面、父「周桜宗月」が自分のショパンの演奏にどれほど大きな影響を与えていたのかを思い知らされた。

単に楽譜を忠実になぞり弾くだけでは成し得ない演奏が、どれほど難しいかを改めて考えさせられる。

ショパンを弾くたびにこう弾こうという意志も、こう弾きたいという願いも鈍り思うように弾けなくなる。