雨に似ている  (改訂版)

ーー泣いている?

細く頼りない後ろ姿が揺れ度々、音が乱れた。


様子がおかしい、貢は詩月の演奏に耳を澄ませながら胸騒ぎがしてならない。


ーー彼は……まさか!


貢がそう思った瞬間、詩月の体がゆっくりと崩れるように沈み、貢は慌てて駆け寄った。


郁子は身動きできずに立ち竦んだ。

詩月が踞ったまま微かな声で呟いた。


「どうして弾けないんだ。どうして周桜宗月の演奏と似てしまうんだただ抗うばかりで……何も変えられない。……僕は周桜Jr.と言われながらピアノを弾きたくない。父さんに似た演奏なんてしたくない」

詩月が身を折り苦しげに、掠れた声を絞り出す。

「僕は……僕の音で僕のピアノを…僕自身のショパンを弾きたいのに……何故、父の演奏から離れることができないんだ……この指の隙間から、夢も希望も願いも……零れ落ちていく」


打ち拉がれ傷つき声をあげて泣く気力さえも失われたように、吐息とさほど変わらない小さな声が途切れ途切れの息の下から紡ぎ出された。

貢は詩月に「おい、しっかりしろよ」と声をかけようとした。

が、郁子の言葉に先を越された。