【好きだから別れて】

「ほれ、呼んでるよ」


声をかけると悠希の顔は青ざめ、生気すら感じない。


この場から逃げられるものなら逃げだしたいはずだ。


渋々立ち上がり、後ろを何度も振り返り何か言いたげな目であたしを見る悠希。


その目が怯えた子犬染みててなんとも痛々しい。


悠希の姿がカーテンで仕切られた個室に吸い込まれ、見えなくなる寸前。


背中へ向け小声で


「ごめん」


こんな形でしか謝れない、ちっぽけな自分がいた。


嫌だよね。こんな検査させられて…


男と女の検査の形は違がえど、屈辱感はきっと同じだと思う。


他人に下半身をさらけ出す。


それがどれだけ屈辱的なのか…


事前に経験していたあたしは悠希の気持ちがわかる。


戻ってくるまで時間がかかり悠希の緊張が移ったのか、あたしは同じように足を震わせ手を組んで祈るように待っていた。


フッと冷静に周りを見渡せば男だらけのこの空間。


目が合いその視線は痛かったけど、そんなものは悠希の痛みに比べれば水滴みたいなもの。


周りなど気にせず、診察室から目を離さずに悠希が戻ってくるのをひたすら待ち続ける。