【好きだから別れて】

知佳と慶太はハイペースでカクテルを飲み、周りなどお構い無しでますます楽しそうに盛り上がっている。


あたしは抑まらない怒りに限界を感じ


「知佳ぁ~うちら先に帰っちゃっていい?」


みんなが楽しんでいる空間をぶち破り、呆れ顔をした。


「えぇっ!!ダメ!歩帰るなら知佳も帰る」


それなのに知佳は抜け駆けするわけでもなく、あたしに合わせてくれた。


いい子なの。


知佳はとてもいい子…


色気をつかさずに素で可愛い。


それに比べて計算してる自分。


自分ながら泣きたくなる。


情けないし、凄い格好悪い。


「なんだよ。もうちょい楽しもうぜ」


慶太は知佳がよほどタイプだったのだろう。


ふに落ちなさげで、二人を繋ぐ携帯番号を聞くまでは帰りたくない様子だ。


「ん~じゃもうちょっとね」


本当は帰りたいのに心とは裏腹な言葉でその場を取り繕う。


「もう一杯なんか頼むかなあ~」


帰りたくない慶太のワザとらしい台詞で、とりあえず場は持ち直し、再び会話は再開した。


みんなあたしをわがままな女だと思っただろう。


自分自身もわかってる。


でもこんなはずじゃなかったんだ。


慶太が好きだから抑えきれなくて、こんなに自分勝手になっちゃったんだ…


悠希も酒がちょっとまわって気分がいいらしく


「歩ぅ~」


頬を赤らめ、目尻をさげ猫なで声で絡んできた。


確認する必要などなく、今の彼氏は紛れもなく悠希で慶太ではない。


彼女に甘えてくるのは当然だし、自然の摂理。


「今日帰ったらすぐ寝るわ」


なのに悠希に全く優しくせず、慶太の前でいちゃつくなんてもってのほかとそっけない態度をとった。


「う~ん。歩ぅ~」


普通の状態なら甘える悠希を可愛いと思えるだろうが、イラつきまくっているあたしにはうっとおしいだけだ。