5月。
学級委員の私は、何故か毎日居残って仕事をしている。
もう1人男子がいるんだけど、そいつは来ない。
担任のオバさん先生は、いつも言い掛かりを付けて私を居残らせる。
今日なんかは。
『教室をピカピカにしなさい。私が良いと言うまで、帰ってはいけませんよ』
正直言って、うちの高校は汚い。
真面目に掃除する人なんかいないし。
だから、黒くて落書きだらけの床や壁をピカピカにすると、絶対に日が暮れる。
それに。
ビチャッ____。
何かと思えば。
先程綺麗にした床に零された牛乳。
「……………」
「きゃはははっ」
「あー、こぼしちゃった〜。ごめんねぇ」
降ってくる下品な声。
2年になってから始まったイジメ。
今更になって。
『姫を辞めろ!』
とか。
『お前は蘭華の姫に相応しくねぇよ!』
とか言われるんだよね。
だって、蘭華の姫になってもう半年だよ?
本当不思議。
まあ気になんかしないけど。
「牛乳で拭くと、汚れが取れて綺麗になる。だから、問題ないよ」
澄ました私が気に入らなかったみたいで。
「くせぇんだよ、お前!」
いや、香水のきっついあんたには言われたくないわ。
「いい加減姫辞めろよ!」
でも、この言葉にはちょっといらってくるよね。
蘭華は私の大切な仲間。
失うなんて、考えられない。
「それは、あんたが口出しする事じゃないと思うけど?」
「あんたが姫の所為で皆んな迷惑してるんだよ!皆んな言ってるよ?高峰沙由里の方が姫に相応しいって」
そうだね。
自分でもそう思う。
最近皆んなが私を避けているのも、その所為なのかもしれない。
改めて突き付けられると、ちょっとキツイよね。
後から入ってきたのに、って思ってしまう自分も嫌。
黙った私に満足したのか、もう一度床に牛乳をぶちまけると、女達は去っていく。
完全に足音が消えると、私は膝を抱えた。
「弱く、なったなぁ………」
ちょっとキツイなんて、嘘。
本当は、かなりキツイ。
皆んなが、私が姫に相応しくないって言ってるのも知ってた。
けど、いざ目の前で言われると。
「………痛い、なぁ………」
涙は、絶対に出さない。
私だって、同じ事をしたんだから。