さすがに恥ずかしすぎて
自分の手を同じように背中へ回すことは
出来なかったけれど、
少し経って離れた時の
松井さんの太陽みたいな明るい笑顔を見てたら
いつかは出来るといいなと思えた。

「さて、
折角アキラちゃんと友達になれたんだから
その七不思議体験って言うの?
参加したいところだけど、
あたしはもう帰らなくっちゃいけないんだよなぁ。」
「どうして?」

勝手に口から出た言葉にびっくりして、
はっと口を手で抑える。

ちょっと困ったような顔をしていた松井さんは、
私の言葉で少しだけ和らげてから
残念そうに肩を落とした。

「明日も朝練あるんだ。部活の」
「ああ………そうよね」

少し間が空いてしまった。
多分私は、松井さんとここで別れてしまうのが
名残惜しいのでしょうね。
認めるには、
その感情は馴染みが無さすぎるのだけれど。

顔には出さないように気をつけて
返事を返したつもりだったのに、
困り笑いだった松井さんは
「あ〜もう、こんなに可愛いなんて知らなかった!人生損してたわ!!誰だよ氷姫とかつけたやつ!姫なのはあってるけど!!」
とか叫びながら嘆きだした。

かと思ったら、
パパっとピアノの始末をつけて譜面を整え
「あ、だから帰んなきゃなんだって〜、も〜
また遅刻して顧問に怒鳴られる!
…いつものことだけど。
じゃあ、もんの凄く残念だけどまたね!
アキラちゃん!
明日絶対に会いに行くからねぇええー…!!」
と叫びながら大きく手を振って走り去っていった。

かと思ったら、ピタッと動きを止めてクルっとこちらに回れ右して、
去った時と同じ速さで急接近してきた。

え!?なに!!?

「あああ忘れてた!これあたしが預かってる音楽室の鍵ね!
明日会いに行くがてら取りにくからさ!!
戸締りよろしく!!!
ついでに王子共!アキラちゃんを泣かせたら承知しねぇかんね!
じゃあ今度こそさよぉならぁああー!!!」

ビュオッと風を起こしてる錯覚を起こしそうなくらい
さっきよりも早く走り去っていく松本さんを
呆然と見送る。
さすが運動神経抜群と言うだけある。

…なんだか

「嵐みたい、だったな」

東雲君が私の心を代弁するかのように
ポロッと呟いたから、
思わず頷く。


でもなんとなく
心労からか次の言葉を紡げないでいると、
どこからか風のような音と、
獣の鳴き声のような声が聞こえてきた。

突然聞こえてきたものだから
少し身構えて聞こえる方に
顔を向けると、そこには…








スー、スー

んがっ?ぐー、ぐー…






…いつの間にか眠っている奈良坂君と
木下君がいましたとさ!!



私の緊張感を返しなさいよ!はあぁ…