_____最後の音から余韻が響いて、
タイミングのいい所で区切り、終止符を打つ。

ピアノの音色がなびいていたその場に、
思い出したように蝉の声が鳴り始めた。

「す、すごい…」

ボソリと、
自分がそう言ったことすら自覚していない様な
間の抜けた顔をした松井さんが呟いた。

「あったり前でしょ」

ふふん、と得意気に鼻を鳴らした澄晴は
自信満々にそう言いながら
自慢そうに松井さんを流し見た。

「澄晴が上手いのは知ってたけど、
荒峰も出来るんだな。すごいじゃないか」

東雲君が素直に感心した様子で私を見る。

別に凄くなんてない。

これはすーちゃんと小学生の時によく弾いていたんだから、
今ならもっと上手く弾けて当然だわ。

…褒められて照れてるわけじゃないから!!

ふん、と腕を組んでそっぽを向いた。
流石にやり過ぎかしら?
東雲君は何も悪くないのに。

ちらっと伺ってみると、
私の不遜な言葉に特に気を害した様子もなく、
優しい瞳で私を見ていた。

…なんだか、ムズムズするわ。

私の方が目を合わせ続けられなくなって
またすぐ逸らす。

と、またなぜか興奮気味の澄晴が
私と東雲君の間にしゃしゃり出てきて、
まくし立て始めた。

「アッキーはねぇ、
小学一年生でジュニアピアノコンクール初出場にして初優勝を飾り、
その後も全国各地のコンクールを総ナメにして数々の賞を受賞した天才美少女と業界では名高いだから!
その繊細かつ大胆な演奏はかの有名なあのピアニストも絶賛する程で、
テレビ出演のオファーを受けること数しれず、
しかしそれらを一回を除いて全く受けることは無かった
そこが更に完璧な容姿に拍車をかけてミステリアスさを醸し出し、
姿を見せなくなった今なお熱烈なファンが増え続けている有様で…」
「す、ストーップ!!口を閉じて!今すぐやめなさい!このお馬鹿!」

はぁ、はぁ、と息が切れてしまう。

な、なんなの?
どうしてそんなに私の経歴を知っているのよ!

怖い、し、どうして澄晴が??

どちらかというと後者の戸惑いの方が大きいわ。

今言っていたことは、
ちょっと美化しすぎな気もするけれど
間違いはない。

でも今の中学校で私のことを話したことなんて一度もないのに。

小学校の同級生もいないこの学校をわざわざ選んだのだし。

一体

「澄晴、あなた一体何なのよ…」

「え?アッキーのファン第一号だけど?」

「………はあ…??」



少し久しぶりに感じる、
私の癖であるため息が
盛大にこぼれ落ちた。