「すーちゃん、だよね?」


可愛らしい声の主は、その声に違わず愛らしい相貌をしていた。

さらりと風に揺れる指通りの良さそうな柔らかい黒髪。

少し広いおでこに、均等に散りばめられた眉や目や鼻等のパーツの配置。

何より、透き通るように白く、毛穴など無いかのようなキメの細かい肌。

校舎裏の薄暗い場所から出た、下校時の夕陽を背に受けたその美少女は、同じ人間なのかを疑う程に綺麗な外見をしていた。

将来が楽しみであるな。ふふふ。というのは冗談で。

その少女を見た途端、少年の溢れそうな涙は止まっていた。

少女らしからぬ美しい外見に見入り、少女しかりとした可愛らしい声に聞き入ったのか。そうでは無い。

少年の目は次第にキラキラと輝きを増していく。

「アキちゃん!!」

そう、その少女は、少年がずっと会いたくて会いたくて会いたかった、愛しのアキちゃんであった。

駆け寄りたい気持ちでいっぱいだったが、尻もちを着いたままの少年は、実は腰が抜けていて立ち上がれないでいた。

恐怖の余韻でプルプル震える腕を地面に付けて立ち上がろうとするが、中々上手くいかない。

その間に、本当に美少女の姿に見入り、聞き入っていたガキ大将達が我にかえり、いい所を邪魔した少女に怒鳴った。

「おい!じゃまするなよ!」
「そ、そーだそーだ!」
「ちょっとかわいいからって!」
「ううん、すっごくかわいいよ!」
「違うだろうがばかっ」
「あいてっ」

ガキ大将に続いた子分達はまたよく分からない方へ話が脱線していっていたが、ガキ大将はまだ気が収まっていなかったので、もう気にしないでやってやる!と再度手を振りあげた。

それに気付いた少年は、あ、痛いのがくると感づき無意識に体に力を込めた。

しかし、その力を込めた手を柔らかい手が掴んだ。

「うぇっ!?」

いつの間にか現れた少女の存在に動揺したガキ大将は、その勢いのまま空ぶってすっ転んだ。

「すーちゃん、行こう」
「うん!」

少年は相変わらず状況がよく分かっていなかったが、会いたくて仕方がなかったアキちゃんに会えたことで、抜けた腰のことも忘れていた。

地面に手を着いたせいで泥だらけの手をぎゅっと握ってくれたアキちゃんは、薄暗い場所から眩い場所へと連れて行ってくれる天使みたいに少年に綺麗に微笑んだ。