「なぁ、
松井は音楽室の七不思議の事
知ってるのか?」

音楽室に入るタイミングを失っていたらしい
木下君達がそんな言葉を発しながら
ぴょこりと音楽室に入ってきた。

「へっ……」

松井さんからすれば突然現れた新登場の声。
松井さんが素っ頓狂な声をあげた。

そして、音楽室にぞろぞろと
入ってくる三人を認めて、
口をあんぐり開けたかと思うと
震える指をあげて三人を指した。

ついさっき似たようなことがあったわね。

他人事のように他人事を眺めてそんな事を思っていると、
またついさっき見たような
大袈裟な尻もちをついて
目を真ん丸に見開いた松井さんが叫んだ。

「お、おおおおお、おおうじよにんしゅうがそろろろろ!」

『王子四人衆』?
何かしらそれ。初めて聞く名称だわ。

というか、
何がなんでも慌て過ぎじゃないかしら。

そろろろろって…んんっ

思わず口から笑いが飛び出そうになって
必死に堪える。

松井さんとは初対面だけれど、
結構愉快な人だったみたいね。

笑いを堪える為に口元に手を持っていくと、
ふと視線を感じてその方向に目を向けた。

私に視線を向けていたのは澄晴だった。

どうして見られているのか見当がつかなくて
小首を傾げてみたけれど、
澄晴は私を見ているようでどこか違う所を
眺めているような瞳で見つめてくるだけで、
何も言っては来なかった。

けれど、その表情がなぜかとても穏やかで、
大事な何かを懐かしんで慈しむような眼差しで、
自分に向けられたものでは無いように感じているのに、
でも正面からそんな目を見ていたら
なんでか恥ずかしいような照れくさいような、
じっとしていられない気分になって落ち着かない。
でも、嫌じゃない。

耐え切れなくなってふいっと視線を外しても
まだ肌に突き刺さるその視線は外れてくれなくて。



松井さんのぎゃーぎゃー喚く声がおさまるまで、
なんでか分からないけれど
私が不思議な気持ちにさせられる
澄晴から向けられるその妙な視線に晒され続けた。