また現れた真っ赤な字の
その矢印は、
今度は階段の方向を指していた。

「だれか俺達の動きを読んでんのかな?」
「先回りして書いてるってことか?」
「たまたまじゃない?ふぁ」
「こここんなの、今さっきまでななかっ」

澄晴が混乱して
会話に入れていないのは置いておいて、
木下君は目を細めて赤い
垂れているように見える字を見つめて、
冷静にそう言った。

人の仕業、なのかしら?

さっきの空き教室にいた人達が
いたときならともかく、
今は私達以外の人の気配なんて感じないけれど…

現在校舎三階に(いつの間にか
こんな所まで来てたのね…)いた
私達は音楽室に行こうとしているから、
矢印の方向自体は一致している。

「ま!いっか!」

矢印について考察を脳内で
繰り広げようとしていた私の脳は、
木下君のあっけらかんとしたその声に
動きを阻まれた。

思わずずっこけそうになってしまったわ!
真剣そうなさっきまでの雰囲気は一体どこにやったのよ。

なんだか不完全燃焼な感が否めないけれど、
私は出来るだけ早くこんなくだらないことを
終わらせたかったんだったわ。

そう思い出して、
木下君に向けて恨めしい目を向けることは止めにした。