「ね〜、遅くない?アッキー」

指相撲する誠と岬を見ているのに飽きた澄晴が言った言葉に、眼鏡を服で拭いていた穂積が掛け直し、自分の右腕にある腕時計に目を向ける。

既に明がトイレに行くと言ってから5分程度が経過していた。

「確かにな」
「うがぁ!俺もこれ飽きた!サッカーしてぇ!」
「12345678910…これで十連勝」
「あ!ずるいぞ岬っ」
「あっちで待とーよ」
「だが女子トイレに…」

渋る穂積に、言いたいことを察した澄晴が口をだした。

「別に入らないしさ。呼ぶだけならイイじゃん。それに時間かかり過ぎだし、ないとは思うけど、一人でいて何かあったらヤバいでしょ?」
「まあ、そうだな」
「デッカイの出てるんかな?…いでっ」
「こら、失礼だろ」

誠の発言に穂積がゲンコツして窘める。正直が過ぎて偶にいらないことまで口走る誠を穂積が止める光景は、数年前から変わっていないよく見るものだ。
それからいつもの様に少し話の逸れたお説教が始まるかと思われたが、その流れは岬の一言によって断ち切られた。

「…早く行った方が、良いかもね」
「え?急にどうしたんだ岬」

穂積の質問に答えることなく、その背後を指差す。
頭に疑問符を浮かべながら他の三人もそれに従って視線を向け、その目に飛び込んだモノに驚き見開いた。

「…これは確かに、ヤバそう」

冷や汗を垂らしながら言う澄晴の言葉は全員の心の代弁だ。

それを最後に無駄話をピタリと止めた四人は一度目を合わせて頷き合うと、明が居るはずの方向に歩き出した。