私には親友と呼べる女の子がいた。
その子は、その頃成長期でグングン縦に伸びた私と比べて小柄で、氷と評される私とは違って元気で明るい、クラスでも人気の女の子だった。

初めて会った時のこともよく覚えてる。
私は引越ししたてで、すーちゃんもいない小学校生活に不安と虚しさ、何かが欠けて足りない気持ちで、最初の自己紹介いらい、誰と話すことも無く一人静かに席にいた。

安心できたのは、いつも持ち歩いているピアノの楽譜を見て、頭の中で引いている時だけ。
地味だけれど、横目でそれをみる同じクラスの子達も不思議そうな、敬遠した眼差しで私を見ていたけれど、私は楽譜を見ながらすーちゃんとの思い出を辿るだけでも満足していた。

ある日、髪の毛を両耳の隣で二つに結んだ女の子に声をかけられるまでは。

『なにみてるの?』
『がくふ』
『たのしい?』
『うん』
『なにがたのしいの??』

今考えてみると、けっこう失礼とも取れるような質問だったけれど、彼女に悪気は無かったのは分かる。

私が見るものを一緒に覗くその目には、好奇心ともう一つ、ただ自分の知らない未知の世界を知りたい欲求のようなものだけが見えて、その時の私は安心する時間を邪魔されたようにも感じていたけれど、その時からその女の子と私は仲良くなっていった。

それから不思議なことに、他に友達がいないことが明らかな私に対する先生たちの配慮なのか、小学5年生まで私とその子は同じクラスになり、自他共に認める親友となった。

だからといって私が社交的になるとか、残念ながらそういった変化は無くて、相変わらず周囲に無愛想と呼ばれる存在だったけれど。

その子のことを少なくとも私はとても大事に思っていたし、『あの事』が起きる前に言ってくれた『だいすき』の言葉も、嘘ではなかったと思っている。不穏というか、暗いものを背後に漂わせているような気配は、その時までは無かったから。


きっかけは単純で唐突で、そして随分と陳腐な話だった。