「さてと、とりあえず澄晴達の話は聞いたから、こっちであった先生の話をするか」

そして、私達が逃げた先で階段にいたのが警備員の男性であったこと、その後図書室に来てから七不思議の1つである『黒い本』を見つけ、それから先生に会い、黒歴史もろもろを暴露したところまで話すと、最後まで黙って聞いていた3人が三者三様の反応をした。

澄晴は「あ、あの冷徹教師が、厨二病こじらせてたとか…ぶっはは!」と覆っていた手も押しのける勢いで吹き出し、「へ〜…」どうでもいい、と後から着きそうなほど退屈そうな声を出した奈良坂君があくびをし、「あはは!あははははは!!」とただひたすらお腹抱えて笑い転げている木下君がいた。

教師の威厳がこの場で消滅した先生に、なんとなく可哀想な気持ちになった。

ついさっきその教師の黒歴史にワクワクしたりそれを逆手にとって脅したりした身なわけだけど、それは棚に上げておきましょう。

それを見ていた真面目な東雲君もあまり笑うと可哀想だろうと言って2人をなだめていた。


しばらく笑ってすっきりしたらしい木下君が明るい顔で、次はどこに行けばいいんだ?と言った。

「えっと、『空き教室』『音楽室』『トイレ』『廊下の徘徊者』『図書室』ここまでは終わったって事だよね」
「ああ、後は『幽霊』と『6つ揃えた時に現れる怪物』だな」
「気持ち悪いのは嫌よ、飛ばして」
「そうはいっても、ここまで来たら全部集めたいじゃん」
「あなた怖がってたくせに何でいきなり楽しそうになってるのよ」
「べ、べべつに怖がってなかったよ!アッキーをカッコよく守ってたでしょ!」
「それはうそ…」
「みさっち即答とかひどくね!?」
「はいはい、とりあえずどっちの七不思議も場所や時間が決まっている訳じゃないから、対策の立てようもない。最後のは6つ揃えないといけないから、なんにせよ次探る七不思議は6番目の、になるな」
「私は嫌だって言ってるでしょう。変えないのなら帰らせてもらうわ」
「え!?駄目だよアッキー!今どんだけ暗いと思ってるの?こんな遅い時間に女の子を1人で放っとけないよ」
「お構いなく」
「構うよ!」
「っ…!」

きびすを返して歩き出そうとしたら、グイッと腕を掴んで引き止められる。
嫌だって言ってるのに離してくれないのにいい加減腹が立って澄晴を睨みつけようと振り返ったら、思わず固まってしまった。

眉尻を限界まで下げて情けない顔をして、…本気で私のことを心底心配しているような顔をしていたから。

「不安なら俺と手繋いどこうよ。それなら大丈夫でしょ?」

言葉に詰まっていると、ニコッと人懐っこい笑顔を見せた澄晴がするりと私の手を握ってきた。

不安だからって手なんか繋ぐのはおかしいと思うし、そんな顔で騙されるもんかとも思ったし、ただでさえ暑いのにそんな事したらもっとひどくなるじゃないとか、色々考えが巡ったけれど、不本意にもその手に安心してしまった。

「…しょうがないわね」

それを知られるのは恥ずかしくって、ついそっぽ向いて可愛くない返事をした。

俯いていたから分からないけれど、そう言うと澄晴が手をぎゅっと一度強く握った。