当たり前だけれど美織が早川に何を言ったのかは聞き取れなかった。
「じゃーね、フジシマ。せーぜー、ハヤカワにフラれないように頑張って」
「うるさい、さっさと行け」
「あっ、そうだ。いちお、ありがとねっ」
「一応って何よ」
内緒話は済んだようで、最後の最後まで生意気な口を叩く美織は楽しそうに声を上げて笑うと母親の元へ走って行った。
置いて行かれたままの早川はまだその場に蹲っていて、やがて何度も振り返っては頭を下げるその家族の姿は見えなくなった。
「……いつまでぼーっとしてんの」
「……えっ」
「なに」
「あは、俺ぼーっとしてた?」
「してた」
どこかぎこちない会話の後で、やっぱりぎこちない笑みを浮かべた早川は、慌てて私から顔を逸らすと立ち上がる。
……なんだその態度。感じ悪いっていうかなんというのか。早川のクセに。
「何の伝言だった?」
「……うん」
「いやうんじゃなくて」
煮え切らない返答。ちゃんと私の話を聞いているのだろうか。
試しに鼓膜でも破ってやりたい。上の空すぎて気付かなさそう。

