「――林檎がないだと?」




訊けば、引きつった笑みを浮かべる彼は、

「まあ、そういうことになるのかもしんねーね……」

とごにょごにょ誤魔化しながら頷いた。




……何をやっているんだまったく。呆れ果ててかける言葉もない。今こいつにかけてやろうと思えるものといえば熱湯か氷水くらいだ。




「昨日、カラオケに忘れてきちゃったみたいでさ……?」


「そもそも何でカラオケに林檎持っていくのよ!」




バカじゃないのっていうかバカじゃん。


白雪姫をやるにはマストアイテムの、毒林檎に見立ててスーパーで購入した赤林檎が紛失したとの告白を受けて早数分。



早川って奴は、ちょっと褒めると調子に乗ってとんでもないことをやらかしやがる。




「ごめん藤島、一応代用のタマネギは家から持って来たんだけど、どうかな」


「どうかなじゃねーよもういいよそれで」




そっと遠慮がちにこちらへ差し出されたタマネギを睨みつけて、投げやりに答えた。



確かに丸っこい点では似てないこともないのだけれど、うちのクラスの白雪姫は間抜けにもタマネギを食べて死にかけるのか、と思うと不憫で仕方ない。


けどそれはそれで笑えるからありだなとも思った。林檎がタマネギに置き換えられたところで劇の進行に支障はなさそうだし。