―陽向side―






キーン…コーン…

カーン…コーン…





授業の終わりのチャイムが鳴る。


「ひーなーちゃん!帰ろ〜!」


さっきまで夢の中にいた俺は五月蝿い声に叩き起こされた。


ぼやける視界で俺のことを呼んだ奴を睨む。


「…あ?」


「ゔっ…そんな睨むなよ~ごめんって~」



ライトブルーが混ざった髪。

その髪を綺麗にワックスで整えてある。

制服はある程度着崩して、カッターシャツの中に濃いブルーのTシャツを着ている。


俺の名前をふざけて呼んだ奴。



安堂聖司(アンドウセイジ)が満面の笑みで手を振っていた。




「別に睨んでねーよ」


寝起きは悪いほう。

急に起こされると尚更だ。


それに今日の俺は機嫌が悪い。

おまけに体はだるいし。


「そのしかめっ面やめなよ〜

せっかくのイケメンがもったいない!!」


誰がイケメンだ。

お前の方がよっぽどイケメンだよ。



「うるせーよ」


「ほらまたぁ~…
陽向、眉間にシワ寄りすぎだよ?」


「可愛く言うな。気持ち悪い」


「え、ちょ、ひどっ!」


文句を言う誠司を放っておいて、教科書など入っていない鞄を持ち立ち上がる。


「陽向!!一緒に帰ろぉ?」


扉の近くまで行ったところで呼び止められる。



今日もか…。


振り返ると委員長の新谷恵(ニイヤメグミ)が立っていた。


「なんで」


自分の眉間にシワが寄るのがわかる。

あぁ、めんどくさい。


「陽向、一緒に帰ればぁ?」


隣にいた誠司がケラケラ笑いながら言う。


「聖司、一旦ごみ処理に出そうか?」


「遠慮しとくよ~」


ったく…。



「…はぁ」


「いいじゃん!ね?いいでしょ?」


ズボンのポケットに突っ込んだ左袖を掴んで首を傾げる新谷。

教室から男子の突き刺さる視線。


うぜぇ…。


「やだ。めんどくさい」

鬱陶しそうに掴まれた手を払う。


「いいじゃんっ!」

手を払ったのが失敗だった。

今度は腕に抱きついてきた。


「…邪魔」

「そんなこと言わないでさぁ…ね?」


必要以上に近づく新谷。

こうゆう奴は嫌いだ。


本当に黙ってほしい。

つーか、離せよ。


「陽向〜

もうちょっと相手してあげたら〜?」


「なんで。面倒臭い」


「ひっで〜」


そう言うお前もケラケラ笑うな。


「ねぇねぇ恵ちゃん」


誠司が新谷に話しかける。


「なぁに?」


「今日は陽向、用事あるから離してあげて?」


優しく、いつもの営業スマイルで言う。


「そっかぁ…用事なら仕方がないね」


ガッカリしたのか、肩を落として腕から離れる。



その隙を見逃さなかった俺は即座に教室を出た。