恋する黒猫



違和感を感じて目を開けると知らない男の人が4人。

誰。


だれ。


ダレ。




また私を捕まえに来た?

あの組織の人たち?


千聖はどこ?


千聖は?



「…おい」


まだ完全に冷めていない目で捕らえたものは、知らない人が私に向かって伸ばした手。


ビクッ



反射的に身体が反応する。



恐怖と。

震えが。

私を支配する。



やめて。



「…っこな、いで」




喉から出た声は細く小さすぎた。


自分の両腕を抱え込む。


震えが止まらない。



助けて。


誰か。


千聖…。





その人はしばらくしてすぐに、伸ばしかけていた手をゆっくりと引いた。





「えっと、この子、怯えてる?」


「見りゃ分かんだろ」


「なんなんだ…?」


知らない人たちは口々に何かを言った。




千聖はどこ。


「…ちさ、と」


いた。


後ろに立ってた。


早く早く。


タスケテ。



いつもみたいに「大丈夫」って言って。



はぁ…と溜息をついて落ちた髪を掻き上げる。


「…またこんなところで寝てたの?」


かっこいいなあ…。



歪な私達の関係。

「あの日」から変わらず。



「…ん。この人たち…だれ?」

両手を伸ばしながら千聖に聞いた。


恐怖で伸ばした指先は微かに震えていた。

それを隠すように優しく私を抱えて言った。


「僕の仲間だよ」


まるで壊れ物を扱うように優しく撫でる。


「なか、ま…?」

「そう、仲間。だから大丈夫」

「…」

「大丈夫」


大丈夫。


「そっか…」

知らない人の視線が感じる。


気持ち悪い。

「ヒロのところに行きたい…」

千聖にしがみついた。

「…」

少しの間黙り込むと、千聖は知らない人たちに向き直った。


「すみません…
少し理事長のところに行ってきます。

陽向達は先に倉庫に戻っていて下さい。

あと、少し遅れるかもしれませんのでよろしくお願いします」


誰かも分からない、知らない人たち。

でも千聖は仲間だって言ってた。

信じていいのか、分からない。

ただ、怖い。


千聖は私を抱えたままヒロのところに向かう。

「千聖、あの人達は誰?本当に仲間なの?」

肩に埋めていた顔を上げて聞く。

「そうだよ。大丈夫。いい人達だから」

本当かどうかは私にはわからない。

でも、千聖が言うなら…と信じてしまう。

依存しきっていることくらい、自分でもわかるほど。

「千聖がそう言うなら、そうだよね」

「…もうすぐヒロさんのところだよ」

「ん…」


千聖の大きな腕の中。
その中にすっぽりと収まる私の体。
日に日に広がる身長の差。

子供の頃から一緒だった千聖。
いつの間にか男の子ではなくなり、今じゃ男の人だ。


私が千聖を掴む力を強めると、千聖も私を抱える腕の力を強めた。


コンコン


「はい」

「ヒロさん」

「あぁ、お前か」


ガチャ

千聖の肩に顔を埋めている私の後で、重い扉が開く音がした。

気配だけで分かる、ヒロの視線。

やっぱり、怒ってるよね…。


「……入れ」

「失礼します」


バタンッ

強く扉を閉める音に、少しだけビックリする。

怒ってる。

絶対ヒロ、怒ってる。


はぁ…と溜め息が聞こえた。

「夢、おいで」

「…あ、ヒロ」

ヒロ…。

ヒロ。


ヒロの体に腕を回すと、温もりが伝わってきた。

暖かい。

ヒロの温もり。



「お前、なんで学校に来た」

「…ごめんなさい」

「謝れと言っているんじゃない。訳を聞いているんだ」


やっぱり、怒ってる。


「……隆と喧嘩した。だから…来た」


数時間前、世話役の同い歳の隆と些細な事で口喧嘩して、ムキになって家を飛び出して来たのだ。

多分今頃、家の者達と龍は必死になって私を探しているだろうな。


「…どうやって来た。車か?」

「ううん。歩いて」


だって飛び出して来たから。


「とにかく、帰りは一緒に帰るから。分かったな?…さてと。おい、千聖」

「はい」

「今日、倉庫行くのか」

「…はい」

「チッ…。それ、休めねえか?」

舌打ちをして眉間にシワを寄せるヒロ。


迷惑だったかな。

迷惑だったよね…。


「大丈夫です。夢といますから。倉庫には断りの連絡を入れておきますよ」

「そうしてくれると助かる」


ごめんね。千聖。

千聖だって、忙しいのに。


私の為に、時間とらせちゃって…。


「夢、千聖といろ」

「わかった」

「いい子にしてろよ」

「うん」


「じゃあ、夢行こう」

「はーい」


千聖は私の手を引いて理事長室を後にした。