「ヒナちゃんには内緒にしておいてね」



パチンッとウインクしてきたユウシは、そのままわたしの横を通り過ぎ、教室へと向かって行く。

…ちなみに言っておくけど、わたしはユウシの彼女なんかじゃない。

ただ同じ中学で、ただ幼馴染の、ただの友達だ。

それ以上の関係になんてなろうと思ったことなんて、微塵もない。

わたしはユウシの幼馴染ではあるけど、恋愛対象としては見れない。




ユウシも同じ気持ちだと思うのに。

彼女でもない、ただの友人にウインクしてくるなんて。

…アイツは、天然なのかもしれない。

それか、幼い頃から学校を歩けば騒がれるような目立つ容姿をしているから、それに似合うよう振舞っているのか。

…真相はわからないけど、わたしとユウシがただの友達なのは真実だ。





「優志先輩ッ!」




階段を上がってきたのか、息を切らせているヒナノ。

だけどその目は、真っ直ぐだった。





『華子ー、ちょっと良い?
ユウに告白してみようと思うんだけど…。
華子の意見も聞いても良いかな?』




ヒナノの目が、アノ子と似ていて。

思わず、アノ子のことを思いだした。




…似ているな、ヒナノに。

妙に納得している、自分がいる。

納得している理由は、わかっている。










山口雛乃(やまぐち・ひなの)。

それが、わたしとユウシの共通の幼馴染―――アノ子の名前だから。




ユウシの彼女である、1つ下のヒナノの名前も、

山口陽菜乃。

―――こんな偶然、神様のイタズラかしらね?