俺が現在の状況を上手く把握できていない間も、彼女はひたすら謝り続ける。
どうも、俺が怒っている風に見えるらしい。
表情にどことなく、怯えが見える。
「そ、そんなに謝らなくても良いよ。
俺も下を向いて歩いていたからね……」
「本当、ごめんなさいっ!」
「気にしないで。
俺こそごめんね。
…そろそろ入学式始まるだろうから、自分の席に戻った方が良いよ」
「はい、ありがとうございます!」
再び90度に頭を下げた雛乃似の女子生徒は、俺の横を通り過ぎて走って行ってしまった。
俺は暫くその後姿を見つめ、自動販売機へ向けて歩きだした。
…それと同時に、入学式開始の合図の音楽が鳴った。
俺たち在校生にとっては暇でしかない行事が、何事もなく終了した。
この後舞台の上にある、校長が立つ大きな机みたいなものや、横に飾ってある花などを片付ける使命がある。
使命と言えば聞こえは良いけど、実際はただの雑用。
俺は先生たちの目を盗みながら、入学式が始まる前に買った珈琲を飲んだ。
ヒナちゃんと関わるようになってから、俺はこういうことはしていないけど。
入学当初はまだ、雛乃を助けられなかった悔やみから、完全に立ち直れていなかった。
だからこの時はハルともさほど仲良くなくて。
飲み物買ってくるから、とハルと離れた場所へ、俺は戻っていなかった。


