でもね。

あたしは確実にあの時、

先輩のことが好きになったんだ。






あたしは恥ずかしくて俯いていた顔を、ゆっくりと上げた。

そして、下から先輩を見上げる形で見つめる。





先輩は、今にも泣きそうな顔をしていた。

茶色い瞳は哀しげに潤んでいて。

肩も少しだけ震えていた。





「せんぱ…い……?」




どうしてそんなに、泣きそうなんですか?

どうしてそんなに、哀しそうなんですか?

どうしてそんなに、苦しそうなんですか?





「……ごめん、無理だ………」




先輩は震えた声で、搾り出すように声を発した。

そしてそのまま、踵を返して校舎方面へ歩いて行く。





「お、おい優志!
何なんだよアイツ…。

ごめんな環奈、陽菜乃ちゃん!」




佐竹先輩は環奈から離れると、村木先輩を追って校舎へ向かって行った。

その姿を、環奈は寂しそうな顔で見送っていた。






あたしは村木先輩の背中の方向を向いてはいたけど、脳内では先輩を考えていなかった。





あたしの脳内にリピートされるのは、

先輩の震えた声と、

今にも泣きそうな顔だけだった―――。