「君。」


「…へ?」

私ですか?

周りをキョロキョロしても誰もいない。

私か。

「君だよ。

君も大変だねー、そんなに可愛くもないのに。」


…カッチーン。


は?
なにこいつ。
命の恩人とか、一瞬でも思った私が馬鹿だった。
なにこいつ。
何が王子じゃーっ!!
全然王子じゃねーし。

いや…ね?
自分の事可愛いとか思ってないよ?
はい、心に、神に誓えます。

ですがね、
レディーに向かってよくも、可愛くないとか…言えたもんだ。

こいつの辞書には、気遣い、遠慮、言い換え、お世辞という言葉がないのか?


…なんて、思いつつ。


「ホントだよね、物好きもイイトコだね。」


「だね。」


否定しろよーっ!
あっ、
神様、仏様、皆様に誓います。
私は自分の事可愛いとか思ってないですので。

ですが!
これとそれとは話が別!
なに、肯定しちゃってんの?
否定しろよー!
仮にもかの有名な怪盗ERICA様に可愛くないとか、よく言えたもんだ。


「君…毒舌だね。

そんな顔で

毒舌とか最高。」



も…もしかして…全て口に出てた…


私とした事が……


…そうかこれは、


暴露婆の仕業だな?

(暴露婆〈ばくろばぁ〉

とは、

取り付いた人の心の声を暴露してしまう妖怪なのだ。)


「なんでも妖怪のせいにしない。

それに、パクっちゃダメでしょ。」


…いや……待って待って…


「あの、私の心の声聞いてましたよね?」


「え?

うん。

心の声というの?…(笑)」


「立派な心の声です!


…って事は……私の正体…」



「あー、怪盗ERICAだってこと?」


完全に聞かれてしまっていた…



私は膝をつき四つん這いになる。


「そんなに落ち込むこと?」


「いや…だって、


あの、謎に包まれた怪盗ERICAが


こんなしょぼい高校のこんなユージュアリーな女の子って、バレたら…


私のプライドが…」



「あんなバレバレの変装と逃げ方で、よくプライドなんて、言えたね?」


「は?」


「俺、すぐに分かったぞ。

怪盗ERICAが満乃 海鈴だって。」


あー…私、


生きていけない。