政吉のように大店に関係している者にとっては、子供の産み分けというのは切実なものなので、そういう者を探し回っている、と言っても不自然にはならないのだ。
 とはいえ、さすがに政吉のことは言っていないが。

「何、構わねぇよ。世話んなってるんだし。女将さんが俺の無理を聞いてくれてるお蔭で、おりんも食いっぱぐれねぇで済んでるんだしなぁ」

 きらきらと、貫七が女将に笑みを向ける。
 女将のみならず、女中全員ぼぉっとなり、厨の空気がおかしくなった。

「ね、猫の一匹や二匹、どってことないさ! 兄さんだって、いっそ金の心配なんざ、しなくていいんだよ」

 胡散臭いほどの爽やかな笑みに、まんまと女将が引っかかる。
 貫七も扱いは心得ていて、いやいや、と謙虚に首を振る。

「女将さんにゃ、十分我が儘聞いて貰ってるんだから、これ以上の迷惑はかけられねぇよ」

「何水臭いこと言ってんだよ。お前さん一人ぐらい、ただで泊めたって構いやしないよ」

 どん、とふくよかな胸を叩く。
 どうやら女将の好意に甘えられるのは、あくまで貫七一人のようだ。

 一応あと二人いるのだが、おそらく政吉たちは数に入っていない。
 お嬢さんが女であることが災いしているのだろう。

「ありがてぇ。いよいよ困ったら頼むぜ。俺も女将さんのために、せいぜい働くからよ」

 洗い終えた大根を渡しながら、貫七はさりげなく女将の手を握る。
 手を握られた女将は元より、また女中全員ぽーっとなって貫七に見惚れた。

---全く、よくやる……---

 猫まんまを食べながら、おりんは冷めた目でその光景を眺めた。