「なな、何で貫七さんを苛めるのと関係あるのよ」

「おりんは俺の相棒だ。俺を苛めること即ち、おりんを苛めることだ」

「そ、そんなこと。大体別に、あたしゃ貫七さんを苛めてなんか……」

「毎晩十分苛めてるじゃねぇか。そろそろ肌を許してくれてもいいんじゃねぇかい?」

 この上なく美麗な男に至近距離で言われ、お紺は瞬間的に真っ赤になる。
 だが。

「いてっ!」

 お紺が何か言う前に、貫七の頬に猫パンチが入った。
 驚いたお紺の目の前で、おりんが後足で立ち上がり、思い切り振りかぶった前足で、すぐ横の貫七の頬を張ったのだ。

 その姿たるや、一瞬後にお紺が取っていたであろう姿にそっくりだ。
 つまり、人が思い切り振りかぶって、相手を引っ叩く格好そのもの。

---やっぱりおりん、普通じゃない---

 そうは思うが、何故だか恐怖は感じないのだ。
 お紺はがばっと貫七からおりんを奪った。
 ぎゅぎゅっと抱き締める。

「可愛い~~。ありがとう、おりん~」

 いくら行動が人のようだとはいえ、抱き付いてみれば、やはりもふもふの毛皮だ。
 猫独特の柔軟さで、おりんは少し身を捩った。
 いきなり抱き締められて驚いたようだが、やがてお紺の胸で大人しくなる。

「何だよ。抱き付くなら俺にしなよ」

 わけのわからない文句を垂れながら、貫七が頬をさする。
 べぇっとお紺は、貫七に向かって舌を突き出した。