「ったく、もうちっとは役に立つかと思ったがな」

 階段を降りながら、苛々と言う。
 いくら貫七のために女になりたいとまで思い詰めたとはいえ、やはりどこか呑気だ。
 本気で焦っている貫七には、その呑気さが癇に障る。

 厨に入ると、女将が下働きの女たちと、忙しそうに立ち働いていた。

「よぅ女将さん。手伝うぜ」

 貫七が声をかけると、女将初め、その場にいた女中たちが、わっと集まってくる。

「悪いね。そこの野菜を洗って、竈に入れる薪を運んどくれ」

「おりんちゃん。ほら、ご飯あげるよ」

 女中らがおりんを受け取り、厨の隅へ連れて行く。
 そして欠けた茶碗に、猫まんまを作ってくれた。

 初めは女将にしか言わなかったが、おりんは大人しいので、女将も安心して女中にも世話を頼んでくれたのだ。

 貫七は早速前掛けをかけ、襷をして大根を洗った。

「兄さん。昼間ずっと出歩いて、疲れてるだろうに」

 少し事情を知っている女将が、気を遣ってくれる。
 事情といっても、もちろんこちらのことは言っていない。

 が、巷で噂の『腹の赤子の性別を変える術者』というのを探している、というのは明かしても問題ないはずなのだ。
 あくまでも噂なのだし、でもそういう者がいる、というのは、貫七だって政吉から聞いたのだ。

 政吉も噂を聞いたクチだし、さらに政吉は、本当にその術者に術をかけて貰ったという女を知っているのだ。
 眉唾ものと笑い飛ばすには現実的である。