結局その日も、特に気になる術者は見つからなかった。
 稲荷山は結構な山だ。
 疲れ果てて宿に戻ると、動く気にもならない。

 貫七でそうなのだから、大店のお嬢さんなど、早々に根を上げる。
 案の定、部屋に入ると、当然のようにお嬢さんが帰っていた。

「お早いお帰りで」

 冷めた目を向ける貫七に、お嬢さんは政吉に足を揉ませつつ、横に置いていた袋を逆さに振った。
 お嬢さんが持っている巾着から、ばらばらとお守りやお札が散らばる。

「ほぅら。これだけ回って来たのよ」

 お嬢さんは占いを中心に店を回ったのだろう。

「でも普通の辻占師と変わんないね。普通に参拝客相手の店を構えてる奴なんて、やっぱりこんなもんか」

「おいおい、参道の店を当たったのかよ。そんなところにゃ出してねぇだろ。つーか、店なんぞ出してないんじゃねぇか? もっと怪しい奴を当たってみなよ」

「やだよ、そんなん。怖いじゃないか」

 即拒否するお嬢さんに、貫七は渋い顔をした。
 所詮は良いところのお嬢さんか、と思う貫七に気付くこともなく、お嬢さんはおりんを呼ぶ。
 が、おりんはシャアッと牙を剥いた。

「あ、今は腹が減ってるから、気が立ってるんだろ」

 そう言うと、貫七はおりんを抱き上げ、立ち上がる。

「あ、か、貫七さん。どこへ?」

「厨を手伝ってくるんだよ」

 疲れている上にお嬢さんの手際の悪さにイラッとしたため、貫七は早々に部屋を後にした。