『貫七がそこまでおいらのことを想ってくれるのは嬉しいけど。人の道は、外さないでおくれよ』

 ぼそ、と言ったことに、ぴたりと貫七の足が止まる。

「……お前は優しいな」

 ぽつりと、貫七が呟くように言った。

『お前ほどじゃないよ。おいらは、優しいお前がおいらのために、平気で人を犠牲にするような人になっちまうのが嫌なんだ』

「俺ぁ元々、そんなにいい人間じゃねぇ。……お前を見捨てたんだし」

 ぎゅ、と貫七が拳を握る。
 いつまでたっても、罪の意識は消えない。
 あの時野犬に立ち向かったところで、救えたとは限らないのだが、何もせずに震えていただけの自分が情けないのだ。

 もしかしたら、救えたかもしれない。
 もしかしたら、がある限り、貫七の罪の意識は消えないのだ。

『……お前が助けようとしてくれたって、きっと二人とも、餌食になってたよ。あ、そしたらもしかして、二人とも猫になってたかもな』

 ふと思いついたように、おりんが笑う。
 貫七も、少し表情を緩めた。

「そしたら同じ時を過ごせたのにな。うん、それだったら、二人で猫の生を満喫できたろうな」

 猫と人では、一生の時が違いすぎる。