朝餉のあと、貫七は政吉たちと別れて、稲荷山に向かった。
 おりんを肩に乗せ、参道を歩いて行く。

「結構な山だなぁ。こう神気が強いと、そんな怪しげな術者は中(あ)てられそうだが」

 行者のところで育っただけあり、貫七もおりんも、通常の者より気を感じることが出来る。
 術者が本物がどうかを見分ける自信はあった。

 ただ、本物であっても、死にかけでもない器から仮死状態の器に魂を移動させ、さらに目覚めさせるなどということが出来るかどうかまではわからない。

「本物を見つけたら、まずはお嬢さんで試すかな。性別を入れ替えることが出来れば、結構な力があるってこった。それから俺たちの本題を持ち掛けよう」

『……お嬢さんの時点で失敗したら?』

「知ったことかよ。死にゃせんだろ」

 さらっと言う。

「お前が無事であればいいのさ」

 ちょっと、おりんは複雑な気持ちになった。
 最近貫七は、やけにおりんを大事にする。
 元々優しい奴ではあったが、あからさまに他人を犠牲にしてまで、おりんを優先したことはなかった。

 いや、表に現れなかっただけで、心の底にはあったのかもしれない。
 それが、最近になって顕著になってきたのだ。

 おそらくそれは、おりんの限界が迫っているからだ。
 焦りが、何を置いてもおりんを優先させているのだろう。