動物を部屋に連れ込むことは出来ないものだが、おりんはただの獣ではないのだ。
 一緒に泊まれるよう、貫七が女将に話をつけた。
 ……いつもの手管で、誑し込んだわけだが。

 だがあまり大っぴらに動物を入れるのは無理なので、他の客にはバレないよう言われている。

「あら? その、おりんは?」

 お嬢さんが部屋の中を見回す。
 おりんの姿がない。

「まさか、勝手に出て行ってしまったんじゃ」

「大丈夫。おりんは今、厨で女将に飯貰ってらぁ」

 ひら、と貫七が廊下を指す。
 他の客に内緒で、半ば強引におりんのことを承諾させたものの、女将はすっかり貫七の虜だ。
 こちらから頼まなくても、おりんに飯を用意してくれる。

 貫七もそのお礼がてら、暇があれば旅籠の仕事を手伝っているのだ。
 もちろんそれによって、貫七の株がますます上がることも計算済みである。

「さぁ、飯を食ったら聞き込み開始だ。お嬢さん、頼んだぜ」

 朝っぱらから、爽やかな笑みをお嬢さんに向ける。

「わ、わかった。任せておいて」

 昨日までとは打って変わり、お嬢さんは頬を染めて、力強く頷いた。