朝、政吉が起き出した頃には、屏風を立てた向こう側は、人の気配がない。
 男三人なのだが、何故かお嬢さんは間に屏風を立てて眠ることを主張した。

 そのお蔭で、昨夜は部屋の真ん中で、貫七(とおりん)側、政吉とお嬢さん側に分かれて寝た。
 さすがに眠るときは、化粧は落とす。
 それを見られるのが嫌らしい。

 全くもって、女子の心のようだと、貫七は呆れたものだった。

 政吉が布団をたたみ、お嬢さんが身支度を済ませて化粧をしていると、襖が開いて貫七が朝の膳を持って入って来た。

「あれ? どうしたんです、その格好」

 政吉が驚いた顔で、貫七を見た。
 膳を並べる貫七は、いつもの着流しに前掛けをしている。

「厨を手伝ってるのさ。おりんを内緒で泊めるのを許して貰ってるんでね、ちょっとした奉公さね」