ふと気付いたことに、おりんは首を傾げた。
 幼い頃から女として育ってきたということは、店の経営には携わっていないのではないか。

 それなりの歳になってもああいうことをしていれば、下手に店にも出せない。
 ということは、親について商売の勉強をしていたわけでもないということだ。

『うわっ最悪。そんな放蕩<娘>とお前みたいな根無し草が一緒になったら、身代なんかあっという間に傾くだろうね』

 嫉妬ではなく現実的に考え、改めておりんはぞっとした。

「えらい言われようだが。なるほど、考えてみればそうかもな。まぁ俺が婿にっていうのは冗談だが、そうすると、やっぱりお嬢さんは、女になったほうがいいかもな。男に戻っても世間の笑い者で、しかも商才もない。今から店の商売を勉強したって遅いだろ? 恥をかきつつ店を潰すぐらいだったら、女になって商売の腕のある婿を貰ったほうがいいやな」

 あ、と、またおりんが顔を上げる。
 貫七も、何か気付いたように、おりんを見た。

『そうか。政吉が打ってつけだ』

「お嬢さんの正体も知ってる。そこまで知ってるってことは、旦那の覚えもめでたいんだろう。能無しに、そこまで目はかけないだろうから、商才もあるってわけだ。……なるほどな」