照れ臭そうに前足で顎を掻きながら、おりんはちらりと貫七を見た。
 そして、あ、と声を上げる。

『そだ。それはそうとしてだね、お嬢さん、どうするんだ? あいつ、長く女装してたお蔭で、結構心も女になっちまってるよ。元々男に生まれたこと自体が間違いだったのかもしれないけど、今本気でお前に惚れてる奴が、正式に女になっちまったら、憚ることなく迫りそうだよ』

 ああ、とようやく、貫七も初めに話していたことを思い出す。
 本来の軽さが戻り、にやにやと笑いながら、顎を撫でた。

「う~ん、色男は辛ぇなぁ。お嬢さんがそんなに俺に惚れてるってんなら、女になった暁にゃ、俺が大店の若旦那に納まるって手もあるがなぁ」

『何だって!』

「そうなりゃ、先行き安泰だぜ。食うにゃ困らねぇだろうし」

『お嬢さんの婿に納まる気かい。は。貫七に、やったこともない商売で店を切り盛りすることなんか、出来るもんかい』

「大店の主って、そうそう商売にゃ口出さねぇでもいいんじゃねぇか? 何か、遊んでりゃいい感じだけどなぁ」

『馬鹿か。そんなことしてたら、たちまち店なんか潰れちまうよ。大体お嬢さんだって、商才がありそうにも見えないし、店継いで大丈夫なんかね』