『お嬢さんからしたら、自分のためにここまでしてくれる他人ってのが嬉しいんだろうさ。政吉よりも、お前のほうが必死だもの』

「当たり前だろ。あいつらとは、わけが違うんだ」

 ふと、貫七が真面目な顔でおりんを見る。

「考えまいとしたって、考えざるを得ない。あれからすでに十年だ。いい加減、焦ってるんだよ」

 おりんは下を向いた。
 わかっていたこととはいえ、やはり貫七はおりんを一番に考えている。
 ここまで必死になっているのは、おりんのためなのだ。

---ちょっと、お嬢さんの気持ちもわかるよな---

 自分のために必死になってくれるのは嬉しいものだ。

---必死になってくれてる貫七のためにも、おいらも諦めずに頑張らないと---

 おりんが元に戻るのは、自分のためでもあるし、貫七のためでもある。
 十年間旅を続けて努力してくれたことを、無駄にはしたくない。

『そうだよね。うん、余計なことは考えないことにする。おいらも、いろんな店に入り込んで、情報を得るようにするよ』

「そうか、お前はどこでも、ふらっと入って許されるもんな。でもあんま一人で出歩くなよ。攫われることもあるし」

 何といっても猫だからな、と言う貫七に、おりんはこくりと頷いた。
 常に自分を気にしてくれる貫七の優しさがやけに感じられ、おりんは胸の辺りがむずむずした。

---くそっ。貫七の奴……。嬉しいぜっ---