「なぁ。あんたは何でここまでして、あのお嬢さんに仕えてるんだい?」

 起き上がりながら、貫七は政吉に聞いてみた。
 胡坐をかくと、おりんがひょい、と膝に乗る。

「そりゃあ……。仕えているお店の若様ですし。初めにも申し上げましたでしょ、若様の立場が危ういのですから、奉公人としては、放っておけませんよ」

「それだけか?」

 貫七の突っ込みに、少し政吉が怪訝な顔をした。

「大店の奉公人ってのが、どういうものかは詳しくは知らねぇけどな。でも別に、あんたが仕えてるのはお嬢さんの親、店の主だろ? お嬢さんは落ちぶれたって、妾の子がしっかりと店を継いでくれりゃ、奉公人にゃ何の影響もないんじゃないか? あんただって、ずっと店に奉公してたってんなら、相当な苦労をして手代にまでなったわけだろ。それを放っぽりだしてまで、お嬢さんに肩入れするのは何故なんだい」

 う、と政吉が言葉に詰まる。

「こ、此度の旅については、内々に旦那様に了承を得ております」

 何故か視線を彷徨わせながら、政吉が言う。
 額に妙な汗が浮いている。
 非常に怪しい。

 だが、主了承済みの旅、というのは想定内だ。
 政吉の懐には、たんまり金が入っている。
 主が工面してくれたに違いない。