参道の露店を片っ端から廻った貫七が、肩を落として宿に帰ったのは、日が暮れてからだった。

「ああ……疲れた」

 部屋に入るなり、ごろりと横になる。
 おりんが肉球で、貫七の足を押していると、すらりと襖が開いて政吉が入って来た。

「あ、お帰りなさいませ」

 寝転がっている貫七を避けて部屋に入り、腰を下ろす。

「……お嬢さんは?」

 政吉が一人でいるなど珍しい。
 貫七が問うと、政吉は窓の外へと目をやった。

「あそこの甘味処に」

 起き上がって窓に顔を近付けて見ると、すぐ前に小さな茶屋がある。
 目を凝らすと、お嬢さんらしき人が見て取れた。

「あそこなら、張り付いておかなくても大丈夫ってか」

「お嬢様も、たまには息抜きが必要でしょうから」

 ちらりと、貫七は政吉を見た。
 こいつは一体、お嬢さんのことをどう思っているのだろう。

 お嬢さんの正体など、内情を聞いていたときは、良くは思っていない印象を受けた。
 でも、やはり何だかんだで気に掛ける。
 それは奉公人としての忠義だろうか。

 そもそも何故、政吉は仕事を放りだしてまで、このように当てのない旅に出たのか。
 手代というからには、それなりの地位だ。
 店に断りもなく、姿を消していいはずはない。