焦ったが、幸い女の姿はない。
 どうやら他の客を放っておけなくなってきたようだ。

『……何か、わかったんかい?』

 再びどんぶりに顔を突っ込み、おりんは貫七に聞いた。

「あんまりだな。行方不明の探索にゃ、稲荷山の新池がいいとか、辻占は結構あるとか。まぁ俺たちにゃ関係ねぇことばっかだ」

『そうだろうね』

 いきなり術者が見つかるとは思っていない。
 おりんは飯を食い終わると、前足で顔を拭ってから、貫七の膝に駆けあがった。

「お前もすっかり猫だなぁ」

 膝の上のおりんを撫で、貫七が言う。

『おいら、このままのほうがいいかい?』

「馬鹿言え。何のためにここまで来たと思ってんだ」

 貫七が珍しく、ちょっと怒ったように言った。
 そして片手でおりんを抱いて立ち上がる。

「俺は、これが最後の機会だと思ってる。ここ何年も、とんと伝手(つて)もなかったのに、いきなりでかい情報が入ったんだ。いい加減、お前も限界だって天も思ったんだろ」

 貫七にしがみつきながら、おりんは、じ、と彼を見た。
 貫七も焦っているのだ。
 十年間、諦めずにいてくれたことを、おりんは嬉しく思った。