「ふーん、そういうことかい。兄さんにとってもいい迷惑だね」

「でもま、俺は単に旅を楽しめばいいわけだし。まぁ、とっとと知り合いを奥方から解放してやりたいとも思うがな」

 いい加減なふりをしつつも、友達を想う良い奴の顔を覗かせる。
 全くの作り話だが、いつものことながら、確実に女は貫七の術中にどっぷりハマってしまった。

「あ、あたしにわかることなら、何でも教えてあげるよ!」

 ばん、と己の胸を叩き、女が身を乗り出す。
 すかさず貫七が、爽やかに笑いかけた。

「ありがとうよ。お前さんみたいな良い姐さんに巡り合えるなんて、稲荷のお導きとしか思えねぇな」

 きらきらと笑顔を振りまき、軽い言葉を垂れ流す貫七の足元で、おりんは胡乱な顔を女に向けた。
 おりんからすると、何故こうもことごとく女子が貫七の術中に落ちるのかがわからない。
 顔が抜群に良く、口が上手いだけではないのか。

---おいらは長く一緒にいるから、麻痺しちまってるのかもね---

 半分は自分の外見である、ということもあるし、そういう理由で出来上がった今の貫七も、言ってしまえば化け物だ。