「もぅ、いいんだよ、そんなこと。元々こんな立派な膳、うちにゃないしね。兄さんだけ、特別さ」

 赤く染めた頬を両手で押さえ、女が意味ありげに言う。

「嬉しいねぇ。いきなりこんな綺麗な姐さんに会えたと思ったら、飯までご馳走になって。はるばる伏見まで来た甲斐があったってなもんだ」

 しゃあしゃあと言い、貫七は両手を合わせて女を見た。
 足元に降りたおりんが、冷めた目で貫七を見上げる。

 こう事が運ぶことを見越して、初めから話をしていたのだ。
 貫七のよく使う手である。

「ねぇ兄さん。どっから来たんだい? はるばるってことは、どっかからわざわざ伏見へ?」

 女のほうは、すっかり貫七の手の内だ。
 接客そっちのけで、貫七の横の酒樽に腰掛ける。

「うん、まぁな。……知り合いが奉公してるところで、ちょいと困ったことがあってな。先行き不安なんで、良い知恵でも浮かぶんじゃねぇかと、ここに来てみたんだが」

 ふ、と貫七の端正な顔に、影が差す。
 憂いを含んだ美貌に、女は引きつけられるように、身を乗り出した。

「な、何だい。心配事かい?」

「ああ、いや。気にしねぇでくれ。すまねぇな、暗い話しちまって」