大津街道を通って伏見宿に入った三人は、とりあえず手近な宿に草鞋を脱いだ。
 ここまでの道中については、ほぼ貫七一人が切り回した。

 旅の道中では、あまり金を使いたくない。
 伏見に入ってからどれほどかかるかわからないのだ。
 長逗留になるのなら、その分金がいる。

 城下町ともなれば、今までの田舎町とはわけが違う。
 顔の良さだけで転がり込む宿が見つかるとも限らないのだ。

 といっても貫七には手持ちなど、ほぼない。
 金のない旅には慣れっこだが、今回は財布がついている。

 政吉は大店の手代だ。
 それなりの金はあろう、と読んで、だがそれを使うのは伏見に入ってからにしようと決め、これまでの街道沿いでは昔のように、貫七が安宿の女将を誑かしてきたわけだ。

「いやぁ、貫七さんの手腕には舌を巻きます」

 小さな部屋に落ち着いてから、政吉が心底感心したように言った。

「ま、俺にかかれば女子なんざこんなもんよ」

 足を揉みながら、貫七がぬけぬけと言う。
 余裕をぶっこいているが、実はそうそう簡単に事が進んできたわけでもなかった。

 昔は貫七一人(と猫)だった。
 だから楽だったのだ。

 今回は人数が多い上に、女子連れである。
 女子を誑かすのに女子を連れているのもおかしな話だ。

 相手の女も、こちらの連れているお嬢さんが気になって、そうそう口車に乗ってくれないのである。
 そこを丸め込んできたのは、やはり貫七の手腕(といっていいのか)によるものなのだが。