「その……。長いこと、世話んなったな。用心棒がいなくなるけど、気ぃつけろよ」

 沈黙に耐えかねた貫七が、後頭部を掻きながら口を開いた。
 視線を逸らせていたお紺が、ちらりと貫七を見る。

 そして、くるりと背を向け、厨に走ると、すぐに戻って来た。
 無言で、持ってきた包みを貫七に押し付ける。

「……弁当?」

 先程握ったのだろう、おそらく握り飯に塗られたのであろう味噌が、僅かに香った。

「お紺ちゃん……」

 また頑なに顔を背けているお紺に、貫七は笑顔を向けた。

「ありがとうな」

 そっぽを向いたお紺の顔が、僅かに歪んだ。
 やっと、貫七を真っ直ぐに見る。

「貫七さん……。あたし……」

 少し明るくなってきた廊下で、お紺の目に溜まった水滴が光った。
 あ、やばい、と貫七が身構えたとき、甘やかな空気を破るように、「にゃあぁぁん」と呑気な声がした。
 おりんが、お紺の足にまとわりついている。

 思い詰めたような目をしていたお紺は、我に返ったように足元を見、屈み込んでおりんを抱き上げた。

「お前も行ってしまうのね。寂しいわ」

 ぎゅ、と抱き締める。
 おそらくそれは、貫七にも言いたかった本心だろう。
 もしかしたら、もっと深い心の中を吐露していたかもしれないが。