早暁、まだ暗いうちに起き出した貫七は、軽く部屋を片付け、おりんをつれて、そろそろと階下に降りた。
 当然ながら、灯りは点いていない。

 貫七は足音を忍ばせて、廊下の奥の物置部屋の前に立った。
 政吉たちは、そこを使っていたのだ。

「そろそろ刻限ですぜ。出られますかい?」

 小声で聞いてみると、すぐに襖が細く開いた。

「す、すみません。ちょっとお待ちください」

 政吉が顔を出し、ぺこりと頭を下げる。
 まだ準備が出来ていないようだが、この二人だって、そう大層な荷物はなかったはずだ。
 ちらりと政吉の背後に目をやると、お嬢さんが鏡に向かっていた。

「……化粧かよ」

 若干貫七の目が胡乱になる。
 途端に鏡越しに、お嬢さんがぎらりと鋭い目を向けた。

「すみません。いえ、いつも完璧に身繕いしないと、絶対に人前には出ないので」

 困ったように、政吉が言う。
 つまり、完璧に女装してからでないと、人前には出ないということだ。

「……まぁ仕方ねぇか。女で通してきたんだもんな」

 女子でも、起き抜けはすっぴんなものだが、それだとさすがに違和感があるのだろう。
 もう子供ではないのだ。