おりんの言葉に、うぐぐ、と項垂れ、貫七は襖にかけていた手を離した。
 そしてのろのろと布団に戻る。
 おりんは貫七の横に寝そべって、前足を胸の下に入れた。

『このままお紺に嫌われたほうが、お紺のためさね。変に機嫌を直されちゃ、お前はますます後ろ髪引かれるだろうが』

「……お前は、やたらと冷めてるよなぁ」

『冷静と言って欲しいね』

 布団に横たわり、貫七は横に丸まるおりんを見た。
 人としての年齢は貫七のほうが上だが、おりんのほうが大人なものの考え方をするようだ。
 状況を的確に読む、というのだろうか。

 冷静と言えば冷静なのだが、常にそうであるのは、少し寂しい気もする。
 というのも、それは人としての付き合いを知らないからのような気がするからだ。

 いつでも周りを、一歩引いたところから見ている。
 がっつり人と付き合うことなく、猫として生きてきた故であろう。

---そだな。とにかく今は、おりんを一番に考えにゃ。お紺ちゃんにゃ悪いが、ここに居着いた元々の理由は、情報収集のためだけなんだし。有力な手掛かりを掴んだ今、ここに留まる理由はないはずだ---

 そう思い、貫七は目を閉じた。