夜更け、布団の中で貫七はぼんやりと天井を眺めていた。
 明日は政吉たちと、ここを出る。

 秘密を打ち明けたこともあり、政吉の態度も大分柔らかくなった。
 ただやはり全てを知っているのは貫七だけなので、大っぴらに親しくするわけにもいかず、二人になれる風呂で旅の打ち合わせをした。

 貫七も政吉も、事は早く運びたい。
 明日の早暁に、早速京は伏見へ旅立つことに決めたのだ。
 旅支度という旅支度もないので、決まれば早い。

 だが心のほうは、そうはいかないようだ。
 貫七はおりんの言葉を思い出していた。

---お紺ちゃんは、俺に出て行って欲しくないのか---

 顔が良い男は、女子から嫌われるようなことはないのだ。
 なまじ自分の外見に自信があるだけに、好かれている前提で散々初心(うぶ)そうなお紺をからかってきたわけだが、まさかそこまで想われているとは。
 こちらと同じように、軽いノリだと思っていた。

---さすがに俺も、このままお紺ちゃんを放っておくのは気が引けるぜ---

 考えてみれば、初心いだけに深くハマってしまったのだろう。
 今までの女子のように、一夜の火遊びを楽しめるほど経験がなかったのだ。

 おりんの言うように、初めにさっさと抱いてしまえば、誰にでもそういうことをする軽い男だと印象付けられただろう。
 女子のことなど考えていない男だと思わせれば、そのような奴に本気になどならないかもしれない。
 何だかんだで、お紺に手を出さないできたことが、お紺に対する優しさで、それが仇になったわけだ。